東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5468号 判決 1978年6月28日
原告 三栄信用組合
右代表者代表理事 雨宮良晴
右訴訟代理人弁護士 渥美俊行
被告 伊藤忠商事株式会社
右代表者代表取締役 戸崎誠喜
右訴訟代理人弁護士 豊田泰介
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第八四八号不動産競売事件に関し、別紙物件目録記載の建物につき、同裁判所が作成した配当表中、被告に対する配当額金一八〇六万七二八五円の配当を取消し、右配当額を原告に配当する。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨の判決
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 債権者を原告および被告・債務者をオートマエンジニアリング株式会社とする東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第八四八号不動産競売事件(以下本件競売事件という)に関し、訴外上野大四郎所有の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)につき、同裁判所により左記の配当表が作成された。
配当にあてるべき金額 金一八四五万円
執行費用 金三八万二七一五円
執行費用を除き配当にあてるべき金額 金一八〇六万七二八五円
請求金額
原告の請求金額 金二七五二万五二〇一円
被告の請求金額 金一八四五万円
配当額
原告への配当額 金〇円
被告への配当額 金一八〇六万七二八五円
(なお、本件競売事件に関しては、債権者原告・別件建物についても配当表が作成されたが、それは本件には関係がないので省略する)。
2 原告は昭和五二年六月九日の配当期日に配当表について異議を述べた。
3 異議の理由は次のとおりである。
(一) 本件建物については左記の抵当権設定登記がなされている。
(1)第一順位 昭和四二年五月二日受付、極度額一千万円、根抵当権者東京都商工信用金庫。
(2)第二順位 昭和四三年九月三〇日受付、その他右に同じ。
(3)第三順位 昭和四五年一一月三〇日受付、極度額一億円、根抵当権者被告。
(4)第四順位 昭和四七年二月九日受付、極度額一千万円、根抵当権者原告。
(5)第五順位 昭和四七年二月一〇日受付、その他右に同じ。
(二) 原告は訴外東京都商工信用金庫(以下訴外都商工という)から次のとおり根抵当権の順位譲渡を受け、その旨登記を経由した。
(1) 昭和四七年二月一五日受付で、前記第一順位の根抵当権の順位を同第四順位の根抵当権のために譲渡し、よって同日以降第四順位の根抵当権は第一順位となった。
(2) 右同日前記第二順位の根抵当権の順位を同第五順位の根抵当権のために譲渡し、よって同日以降第五順位の根抵当権は第二順位となった。
(三) されば、前記順位譲渡によって、被告の有する第三順位の根抵当権に、原告は優先するものというべきである。
4 然るに、前記配当表では、被告を原告よりも優先して取扱い、被告への配当をなしているが、これは違法不当であるから、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 被告の答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実につき
(一) 同(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実中、原告主張の根抵当権の順位譲渡の点は不知、その旨の登記があることは認め、その余は否認する。原告主張の順位変動の主張は争う。
(三) 同(三)は否認する。
4 同4は争う。
三 被告の主張
1 原告主張の如く順位譲渡の事実が存したとしても、本件建物の競売による競落代金については被告が原告に優先して配当を受領する権利がある。
即ち、順位譲渡は先順位の根抵当権者より後順位の根抵当権者のため行われるもので、右譲渡人と譲受人との間に中間担保権者(本件では被告)が存する場合も、右中間担保権者の同意なく行われる結果、順位譲渡は譲渡人と譲受人間の順位譲渡の当事者間においてのみ相対的に効力が生ずるにすぎない。換言すれば、中間の順位者に対する関係では順位譲渡がないのと同様の法律関係になる。
2 而して、右順位譲渡の結果、譲受人は譲渡人に対する関係において、競売の場合、順位譲渡なかりせば譲渡人がその本来の順位において優先弁済を受けるべき配当金額と、譲受人がその本来の順位において受け得る配当金額の合算額の範囲内において、譲受人が譲渡人に優先して弁済を受ける権利を有するにすぎないことは法律上明白であり、実務上も右に従い処理されている。
ところで本件競売においては、右順位譲渡人である訴外都商工の被担保債権が全く存しない以上、何らの弁済をうける権利もないので、譲受人たる原告は、その本来の順位(第四・五順位)においてこれが配当の有無が決せられることは当然であり、従って競売裁判所の作成した本件配当表は適法である。
四 原告の被告主張に対する反論
1 被告主張の1および2の主張事実は否認する。
2 原告と訴外都商工間の本件根抵当権の順位譲渡処分は、対抗要件を具備した(付記登記済および債務者の承諾)有効のものである。
3 被告が主張するように訴外都商工の被担保債権が仮に皆無であったとしても、都商工が把握していた極度額についての優先弁済権の順位そのものを原告に絶対的に譲渡し債務者もこれを承諾したものであるから、被担保債権の有無に拘らず原告の担保権の優先弁済の順位は、被告のそれに優先するものと云うべきである。被告自身の担保権はその設定時において既に都商工の債権極度額の範囲内では後順位に甘んじることを予定していたものだからである。
五 被告の右に対する再反論
若し原告の主張するが如き見解によると、順位譲渡が行なわれなければ、順位一番の根抵当権の被担保債権が皆無のときは、順位二番の担保権は当然順位が一番に上昇するにかかわらず、その根抵当権の順位が二番の担保権者の同意もなしに順位三番の抵当権者に譲渡されたことにより、譲受人が根抵当権の極度額を限度として順位一番の優先権を行使することができることとなって、順位二番の担保権者の権利を害することになるので、右見解は失当というべきである。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1、同2、同3の(一)の各事実および原告主張の如き登記が経由されていることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、原告が訴外都商工から原告主張の根抵当権の順位譲渡を受けたことが、認められる。
《証拠省略》によれば、本件競売においては順位譲渡人である訴外都商工の被担保債権が全く存しなかったことが、認められる。
三 そもそも、順位を譲渡する担保権と順位譲渡を受ける担保権の中間に担保権が存在する場合には、その順位の転換はあくまで相対的であるので、中間の順位者に対する関係では順位譲渡がないのと同様の法律関係になるのである。即ち、根抵当権の順位が譲渡された場合には、順位の譲受人は、順位を譲渡した根抵当権者の優先配当額を限度としてしか順位譲渡の利益を受けることができないと解するを相当とする。
四 ところで、本件競売においては前記のとおり、順位譲渡人である訴外都商工の被担保債権が全く存しない以上、何らの弁済をうける権利もないので、譲受人たる原告は、その本来の順位(第四・五順位)においてこれが配当の有無が決せられるのは当然である。従って、本件においてなされた配当は妥当であり、そのために作成された本件配当表は適法というべきである。
この点に関し原告が四の3において「……の順位は、被告のそれに優先するものと云うべきである。被告自身の担保権はその設定時において既に都商工の債権極度額の範囲内では後順位に甘んじることを予定していたものだからである。」旨述べる反論は、前記説示および五において述べている被告の再反論よりして、到底採用できないものというべきである。
五 以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤原康志)
<以下省略>